シリコンバレーのエンジェル投資ブログ

金融工学

ー サブプライムローンを証券化する、さらにはそれにAIGに保険をかけてもらう。
そして一般の何も知らない投資家に売る。ー 

リーマンショックはそしてうまれたと言っても過言でもない。ふたを開けてみるAIGが危ない、これにはオバマもほっておけないから何千億という資金を援助します。景気の底上げどころかこれ以上の失業者を増やせないからウォールストリートの金融関係者に資金がつぎ込まれていく。ウォールストリートが起こした金融危機を政府が必死になってサポートを入れる、そうかと思うとこんな中でウォールストリートがまた儲けだす。そうすると、厚かましくも6ケタ以上のボーナスをもらって当然だという顔をしている。一体どこまで厚かましいことか、あるいはグリーデーであることか。

そんなグリーデーなウォールストリートを規制するために新しい規制法案ができた。さてうまく運営できるだろうか。しかし金融工学にたけた連中だ、きっと新しい証券を生み出すことだろう。先日、スタンフード大学のダニエル沖本教授の講演会で“先生、このような金融危機は又起こりますかね”。と尋ねたら、”また起こるね”と悲しい顔でおっしゃった。ウォールストリートのグリーデーさはいつまでも消えないのだとおっしゃっているようです。

我々エンジェルインベストしている連中は、アントレプレナーの意気に感じてシードマネを投資する。そしてプロトタイプができたころにベンチャーキャピタルから多めの資金を投資してもらう。

さてと、スタートアップというものは、晴天スケジュールで、モノが出たためしはまずない。そして又数年がたってからベンチャーキャピタルに再度投資をお願いに行きます。このころになると数億の金が必要になります。当初の資金集めを、「シリーズA」と言います。そして次々集めて行くときに、B, C. Dとつけていきます。最近ではPまで、何と17回も投資を受けている例があります。それだけ自立するまでに資金がたくさんいるわけです。ですからベンチャー起業の成功率は1%にも満たないのです。

Down Round
さて、アメリカのベンチャーキャピタルの金融工学は次のように展開されます。資金集めの3回目ぐらい、多分このころだと5億円ぐらいが必要になります。このころになると、サンプルもまだ未だお客の見通しもはきりしていません。ですからベンチャーキャピタルは会社の評価を前回よりも低く見積もってきます。2回目の会社の評価が15億円だったとすると、今回のバリューを8億円と提案してきます。従来投資してきたベンチャーキャピタルも逃げ腰になり、結局今回の投資をするベンチャーキャピタルが主導しますから、会社側は背に腹は代えられず、その提案をのみます。そうでないと会社がつぶれますので仕方なくなります。この時、新しい投資するベンチャーキャピタルが次の様な提案をします。今までの投資家に対して今回集める資金をその持ち株比率の分担を要求します。もしそれにおおじない投資家に対しては、その持ち株を1/10 に減らすような提案をします。又この時、従業員の持ち株を1/20 に減らします。それはここまで来て商品ができてないから、創業者の責任を取ってもらう意味があります。さらに社長交代の伏線があります。

この方式をPay per Play (お金を払った人だけがゲームを継続できる)と言います。

最近遭遇した例では従来の投資家分を1/10 にして、さらに従業員の持ち株を1/100にした例がありました。これは社長の株を減らす意味で結局社長を辞めさせる手立てとなっていました。私も創業者の一人だったので社長と二人で会社を辞める羽目になりました。これが最後に金のあるベンチャーキャピタルが、最後に儲ける仕掛けとなっています。ただし、スタートアップの会社は優秀なエンジニアが必要なので、このような処置をしても、あとで従業員のオプションを20%に追加しています。即ち創業者の株をゼロにしたから、その分を新しく従業員の株を20%まであげれるのです。結局創業者社長の責任と追い出しのための処置にもなっています。

我々みたいなエンジェル投資家はこの金を持っているベンチャーが最後に勝つ方程式のためにたびたびこのような痛い目に会っています。Tieの組織の中には我々みたいなエンジェル投資がいっぱいます。ですから最近のエンジェル投資家はいささか嫌気がさして、シードマネーを出したがりません。グリーデーな金融の世界はウォールストリートだけでなく起業を育てる役目のベンチャーキャピタルがこれでは将来もしかして大きな産業になるかもしれない大事な芽を摘んでしまいますね。

日本の場合は金の価値はあまり変わりません。勿論、Valueが半分ぐらいになることはありますが。アメリカのベンチャーキャピタルがみたいに1/10 とか1/100とかにするなどということはありません。$1.00のお金は時間が過ぎても$1.00であってほしいものです。今回の金融危機も、$1.00 の価値が時間と共に下がっていったために起こったのですね。お金は平等で民主主義であるべきです。時々、日本の会社に投資したいアメリカのベンチャーキャピタリストが、この論理を推し進めてくるので大変こまります。私は$1.00の価値が時間がたっても$1.00だと反論していますが。彼等はDown Roundを認めないと投資してきません。このグリーデイさには困ったものです。ウォールストリートがまた、金融危機を起こす可能性があるのはここから来ています。アメリカには孔子、孟子の思想はないですからね。

だからダニエル沖本先生がこの次の金融危機を懸念するわけですよね。

シリコンバレイから。

iPadフィーバーに思う。

久しぶりの対戦 〜徳永卓三さん(企業家倶楽部社長)と〜

5件のコメント

  1. admin

    平様

    こうやって整理するとシリコンバレーも産業創発をする為の
    お金の有り方、VCの投資スタンスの有り方が問われる必要がありますよね。

    途中の所では、「事業家的」価値の認識をして、売上が立ってなくても
    「開発」が進んでいるという前提で価値規定を行い、ダウンラウンド
    をせずにファイナンスをするというのが、私たちの考え方です。
    (もちろん、全く将来的価値を生み出す可能性の無いものはダウンランド
    も当然ですが、そもそもの価値規定の前提が違います)

    しかし、「金融的」価値の認識をすれば、PL/BSにタンジブルでない
    状況は企業価値を減価させているのでダウンラウンドは当然という
    アプローチになって、結果的には本来持つであろう将来価値まで
    破壊してしまうという事に繋がる危険性はあります。

    すると結局、短期的にモノが売れるビジネスのみ投資資金が
    あつまって、革新的な技術のチャレンジがだんだん無くなってき
    ますよね。

    スタートアップやシード段階でのエンジェル投資家のはたす
    役割は非常に大きいし、こういう「事業家的」投資家が有るから
    こそ技術の発掘が起こるんだと思うんです。
    (シリコンバレーでは、平さんを通してそう感じました)

    本来、ピータードラッカーも30数年前に「見えざる革命」という
    本で記述しているとおり、「新しくまだ若い10の事業のうち、いずれが
    失敗し、いずれが成功するかということを知る方法は無い。どのように分析し、
    どのように研究しても無駄である。なぜなら、いまだに存在しないもの、
    なんの実績もない約束だけのものを分析することは不可能だからである。
    企業家的な能力とは、投資案件のつまみ食いではない。それは実りのないことが
    明らかになったものを知ってそれを捨て、はじめは悪く見えてもやがて成果を
    あげそうなものを知って、それを推進する能力の事である。」とあります。

    シリコンバレーでのエンジェル投資家は(日本にはこういうエンジェルはいないので
    とはちょっと日本とは実情がちがうと思うのですが)こういう役割をしてきたと思って
    います。それをドラッカーはベンチャーキャピタルに求め始めたのがこの本を書いた時期で、
    初版では「企業家的投資家」としていますが、後で出た再販版では「ベンチャーキャピタル」
    という記述になって表現しています。

    そのVCが、今や「金融的」な視点で、企業価値の規定をしている結果が
    このレポートで表現されている現状なんでしょう。
    これでは、シリコンバレーのエンジェルは消えて無くなってしまい、VCも
    金融的アプローチしかしなくなってしまっては、本当に革新的なチャレンジの
    テクノロジーブレークは発掘されないまま、ベンチャー企業に期待できなくなって
    しまいますね。

    日本で起こっている課題とはまた違った問題を、今のシリコンバレーははらんでいる
    ように感じました。

    ありがとうございます。

    山下 勝博 (Tsunami On The Road)

  2. 平さん

    ブログ拝見しました。

    ある人の表現では、「日本のVC業界は、核戦争後のようだ。」ですが、今年に入ってから、ITサービス中心に面白いベンチャーもたくさん出てきています。

    古田

  3. admin

    古田さんありがとうでもTechnology 係のベェンチャーがほしいですね。

    金融工学その2
    DropBox が成功をおさめている。7年前に同じような会社のシードマネを提供しかし進歩が遅くDropbox にかまれてしまった。その時はCloud Computer はなかったしService の費用が大変だった。今ならDropBox
    よりもうまく行ったのに、Timing が起業の成功に寄与しますね。
    そして今回は今までの投資家の持ち分は1/10 になったExit で10倍にならないとすべてなくなります。これも背に腹は代えられないベンチャーの宿命ですが。エンジェルが羽根を次々にもぎ取られていきます。

    平  強

  4. 平 様
    今日、『到知』のメルマガより平様の寄稿を拝見しました。エンジェルの方が先哲の教えを元にビジネスされていることに嬉しい気持ちと興味が沸き起こり、ネット検索でこちらのH.P.に到達しました。金融工学と孔子、孟子の教え。。。今もこれからも距離が近づく事はなさそうですね。ジャックアタリの『21世紀の歴史』でも、このざらついた世界は益々広がり、全ての人のオアシスにはならないと予測しています。

    実は私もベイエリア在住で、『到知』の読者の一人です。安岡正篤師を心の師としています。
    私は2003年にここで輸送サービスを始めました。このサービスは今までに無い輸送サービスで格安で荷物の輸送を行ないます。今はアメリカより日本向けだけですが、この方法でアジア、ヨーロッパを繋ぐルートを作りたいと拡販に向け作業中です。

    平様に連絡をしたのはエンジェルをされているからですが、マネーにしか興味の無いVCには私の仕事を汚して欲しくないからです。もし、よろしければ私の企画を聞いていただけませんか?
    貨物物流というI.T.工学からかけ離れた業態ですが、これも世に必要不可欠なものです。
    ところで私の読者寄稿が10月号に掲載されます。

    山口 高宏

  5. tsuyoshi taira

    コメントありがとう。致知は毎号たのしんでいます。ところで私の寄稿は何月号に載ったのですか。
    そのうちあいましょう。メイルアドレス おしえてください。
    Twitter で送ってくれるといいかとおもいます。Twitter のアドレスは
    tuyoshitaira です。

tsuyoshi taira へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA


Powered by WordPress & Theme by Anders Norén