07/06/19 火曜日20:58:03

企業家倶楽部へ記事を提供しました。
企業家倶楽部6月号より転記の許可を得ましたので掲載いたします。
 


企業と政府のガバナンス

 

タザンインターナショナル代表 平 強

 

 シリコンバレーで日本の政治情勢を知ろうとすれば、米国で印刷された日本の新聞かローカルで流されている日本語放送のニュース番組を観るしかない。したがって重要法案が国会を通過したことは分かるが、どういった経過でどんな議論がなされたかは新聞紙上で窺うことはできない。
 新聞報道はどちらかというとバッシング中心の気がしてならない。その法案が今後の日本経済や政局に及ぼす影響についての解説が足りないのだ。記事を読んでいると日本の政治はどうなっているのだろうかと気になる。ニュースメディアはもっと中身を報道すべきではないか。読者の視点からは、殆どが骨抜きになった法案が国会を通過したという印象を持つ。自民党の派閥政治、あるいは関係各省の既得損益が原因と結論付けられており、いったい政治家や官僚は国民のために尽くしているのだろうか疑問だ。果たして日本にとって国際的に何が重要かということを考えながら行動している政治家はどのくらいいるのだろう。

 

ベンチャー的政権誕生

 

 2001年4月の小泉政権誕生の時には、やっと日本にもアメリカ的、すなわちベンチャー的な政権が誕生したと感じた。これで官僚のしがらみから抜け、本格的に日本を改革する総理大臣が誕生したと大いに期待したものだ。
 しかしマスコミの報道からは小泉政権のバッシングが目立ち、改革へのサポートは少なかった。特に竹中平蔵大臣に対するバッシングが目立った。竹中氏は彼の著書「構造改革の真実」の中で、小泉政権での奮闘を振り返っている。民間から登用され経済財政政策担当大臣に就任し、不良債権処理、郵政民営化、経済財政諮問会議の構造改革を通して小泉前総理の揺ぎない信念が描かれていて興味深い。管轄の省内部、関係各省との葛藤が見事に描かれている。
 官僚は、既得権あるいは権威を守るために新しい改革に抵抗を示す。このために長期的な国益は二の次になっている。自分たちの既得権を守ることに汲々としているのだ。こういった状況での不良債権の処理、企業再生、郵政改革は、大変な苦労だったに違いない。
 竹中氏の注目すべき点は、問題解決のシナリオとその対策を十分に検討し、経済諮問委員会の民間議員に十分検討してもらい、更には関係省庁に対して十分な根回しをしていることが挙げられる。日本文化の中で育っただけあり、根回しの重要性を十分熟知している。
 しかし、何といっても小泉前首相の意思の強さが素晴らしい。特筆すべきは、徹底的に竹中氏を信頼し、常にバックアップすることも忘れなかった点だ。小泉前政権を見ているとシリコンバレーのスタートアップ企業の経営に似ている。スタートアップ企業の社長は確固たる信念を持ち、戦略を立て、更に選択と集中をして企業運営に当たっている。
 企業経営は戦略を明確化し、目標に向かって徹底的に立ち向かうことが成功の秘訣だ。社内に抵抗勢力があれば成功の確率は下がる。私の経験から言えることだが、成功するスタートアップ企業のチームワークは強固で素晴らしい。経営陣のケミストリー(相性)がすごく良い。こうでないと成功はまずない。
 日本文化は社長の意向が時として無視して運ばれてもあまり気にかけない。また、そういう風にして事が上手くいく例が多い。しかし、ここシリコンバレーでは、経営者が強力な指導力を発揮しなければ事業は成功しない。トップがビジョンと進むべき方向性を社員にはっきりと示せなかったら事業の成功は望めない。

 

企業はトップで決まる

 

 日本の多くの大企業の場合、上層部の指導力が曖昧で、外部から見ると主力事業に集中して運営されていないように見える。事業の重複と無駄が繰り返されている。いわゆる総花的経営だ。これでは環境の変化に勝てない。戦略を練って集中しなければ国際競争力で負けてしまう。
 米国では経営者が方向性を示せない会社は業績が上がらない。日本の経営者はビジョンを部下に示せない人が多いように思う。いわゆる名ばかりの社長で、運営は部下に任せてしまう。社歴の長い企業では組織としてしっかりと動いているように見えるが、トップの顔が見えない会社は気になってしまう。
 「企業は人なり」、やはりトップの顔が見えることが重要だ。米国企業の場合、社長の名前と企業名が同等に知名度がある。文字通り、「企業は人」になっている。例えば、シスコのジョン・チェンバース、アップルのスティーブ・ジョブス、GEのかつての会長であるジャック・ウェルチなどが挙げられる。他にもゴールドマン・サックスの会長であったヘンリー・ポールソン(現ブッシュ政権の財務長官)など枚挙に暇がない。
 それでは、日本企業ではどうだろうか。松下電器の中村氏、キヤノンの御手洗氏、日本電産の永守氏、あるいは京セラの稲盛氏など限られた経営者のみだろう。米国の投資家は誰が社長かによって投資を決める。また、株価も社長で大きく左右される。それだけに統帥力やビジョンが重要視されるのだ。
 最近、企業ではいろんな不祥事が起こる。その原因は企業のガバナンス(企業統治)にある。これは社長の指導力が弱くなっているからだ。米国の企業経営は各部署が損益を絶えず考えながら運営することを強いられている。また、SEC(証券取引委員会)がいつも企業統治に目を光らせている。したがって、普段の訓練がいつでも社長に任命された場合の下準備ができている。ところが日本企業の経営では、損益は経理畑の人間と社長の責任で、各部署の長までは意識がない。順番で社長に就任しても、企業運営が旧態以前として結局改革は起こらない。ここ最近の同族会社の破綻などがいい例だ。
 米国企業の場合、普段からベンチャー企業の社長同様、企業運営を絶えず考えているので、毎日が社長になるための訓練をしているようなものだ。また部下に対しては、絶対的権力を持ち部下を十分活用する術を知っている。

 

取締役会の重要性

 

 面識のあるヒューレット・パッカードの元CEOのルー・プラット氏は、HPウェイを実践されている方で、部下をとても大事にされていた。しかし取締役会は「彼では今後の変化についていけない」と判断し、新しい社長を雇うことになりカーリー・フィオリーナを引き抜いてきた。ところが創業者グループと意見が合わず、さらに彼女を選んだ取締役会とも意見が合わなくなり、解任された。新しい社長マーク・ハード氏は今のところ業績を上げつつある。これからヒューレット・パッカードの顔になっていくのではないだろうか。
 変化に対応できないか、あるいは会社の業績を次のステージに牽引できない社長を長くその責においておくと倒産してしまう。米国の取締役会は非常に権限があり、過半数が外部の人間なので、物事を公平に判断する。その代わり、取締役の法的な責任も重いものがある。日本の取締役はほとんど内部の人間であり、トップの言いなりになっている。このことが原因でたびたび不祥事が起こる。改革への意識がないのか、企業の発展性を高めるために社長を交代させるといったことは殆ど聞かない。
 経営陣を公平にチェックする機能が必要だ。そして公平に会社の運営を行う必要がある。企業のガバナンスは大変重要だ。 ガバナンスの確立されていない会社は業績が上がらない。日本企業の大半が売上げよりも時価総額がはるかに小さい会社が多すぎる。このことは、格好のM&Aの対象になることを意味している。なんとか企業価値を上げ、押し寄せるグローバリゼーションに耐え、会社の顔が見えるような企業がたくさん増えることを期待する。

 

平 強(たいら・つよし)
 

 参考書籍
「構造改革の真実」竹中平蔵